ノートの蓄積が増えてくると、一つひとつのノートをリンクで結ぶだけでは、全体としてどのように読み進めればよいのかを選ぶことが難しくなってきます。フォルダのようにあらかじめ枠を決めて分類する方法と、Zettelkastenのようにノートを繋いだ後から構造が現れる方法とがありますが、ノートの集積に対してMOC(Map of Content)を重ねることで、保存場所とは別に、その時々の問いに沿った入口を作ることができます。
MOCは知識の集積を使える地図に変える
ノートが増えるほど、個別のリンクを辿るだけでは全体の読み方を選びきれなくなります。どこにどのような断片があるかは分かっても、特定のテーマに沿ってどの順序で読み返せばよいのかが定まりません。
フォルダによる管理では、あらかじめ保管場所の枠を決めてノートを仕分けていきます。これに対してZettelkastenでは、個々のノートを繋ぎ合わせていくことで、後から自然と構造が現れてきます。このようなノートの蓄積に対してMOCを重ねると、保管場所としての枠組みとは切り離された、問いに沿った別の入口を設けることができます。
ノートの保存場所と読む入口を分けることによって、蓄積された断片を読み返す道筋を、その都度組み替えることが可能になります。固定された一つの分類にノートを縛り付けるのではなく、関心や目的に応じて何度も地図を描き直すことができるのが、MOCを導入する大きな利点です。
MOCは問いに合わせてノートを束ねる
では、MOCはどのようにしてノートを束ねていくのでしょうか。
まず、MOCに置くノートは、中心となる問いによって選びます。このとき重要なのは、その問いを安易に一つの答えへ閉じないことです。MOCのタイトルもまた、一つの答えに縮めてしまわないようにします。MOCを一つの主張だけで束ねようとすると、その主張とは異なる反対の命題を見落としてしまうためです。中心となる問いを据え、その周辺に位置するノートを並べることで、その問いが持つ射程や広がりを測ることができます。
また、MOCではノートを排他的に分類する必要はありません。MECE、すなわち漏れなく重複なくきれいに振り分けることにとらわれる必要はなく、同じアトミックノートを複数のMOCに並べても差し支えありません。ノートの保存場所と読む入口が分かれているからこそ、一つのノートを複数の文脈に登場させることができます。
このように、問いを中心にして答えを急がず、多面的な探索を可能にするのが「索引型」の束ね方です。これに対して、特定の主張を前面に押し出して論拠を揃えていくのが「テーゼ型」の束ね方になります。知識を探索して広げる場面と、考えをまとめて発信する場面とで、この二つの型を使い分けることになります。
MOCを組むと足りないところが分かる
MOCを組み立てていく価値は、完成されたきれいな一覧を作ることよりも、ノートを並べて構造を描こうとしたときに「ここが足りない」と気づけることにあります。
MOCを組むと、次に足りないノートが見えてきます。既存のノートだけで綺麗に埋まってしまうMOCは、すでに持っている知識を並べ替えただけであり、新しい発見がない証拠とも言えます。むしろ「ここに入るべき命題が抜けている」という欠損こそが、次に書くべきノートを教えてくれます。
そのため、MOCは穴だらけの状態であっても先に作ることが大切です。整理ノートを書きながら、未整理の箇所を具体的に見つけていきます。まだ作成していない命題であっても、空のWikiLinkとしてMOCに並べておくことで、思考の枠組みの中に空白の位置を確保できます。
MOCには、特定のツールが変わっても通用する考え方だけを書き残します。そのために必要な素材が何かを洗い出す装置として、MOCは機能します。したがって、完成度ではなく欠損の発見数でMOCの出来を測る方が、知識の成長につながります。
また、MOCは一度作って完成させるものではありません。ノートを並べて関係を記述していく過程そのものが思考の整理であり、その途中にこそ価値があります。ノートを並べ替えると知識の違いを考え直すことができるため、MOCを組み立てる行為は、執筆のための単なる下準備ではなく、考えること自体と同義になります。完成を急ぐと、穴を見つける前に構造を閉じてしまい、整理の途中で生まれるはずだった問いを取りこぼしてしまいます。だからこそ、一度作って終わりにせず、未完成のまま繰り返し開いて組み替え続ける使い方が合っています。未完成のMOCは、まだ考えている途中であることを示しています。
テーゼ型MOCは記事の下書きになる
未完成のまま問いを広げたり欠損を探したりする段階から、ある明確な主張を文章として届ける段階へと進むとき、テーゼ型MOCが力を発揮します。
テーゼ型MOCを作ると、それだけで記事の下書きができあがります。主張を見出しに立てて、その下に論拠となるノートを並べた時点で、文章の構成はすでに組み上がっています。MOCを作ってから改めてゼロから記事を書き起こすのではなく、MOCを作る作業の中で、すでに記事の組み立てが進んでいます。
テーゼ型MOCはそのまま記事の構成に使えるため、残るのはその構成に文をつけていく作業だけになります。
ノートの整理と記事の執筆を別の作業に分ける構えをやめることで、アトミックノートの蓄積は、執筆をゼロからの創作ではなく「組み立て作業」へと変えていきます。日頃から蓄積したノートを問いによって束ね、不足を見つけて補いながらテーゼ型MOCへと配置していくことが、そのまま記事の下書きを作ることにつながります。