デイリーノートを道具と記録から執筆へつなぐ
日々の記録をデイリーノートに残していると、それは生活を支える実用的な道具になります。その日の行動を管理し、出来事を留めておく場所としては十分に機能します。しかし、そこに溜まった記録をどうやってまとまった執筆につなげればよいのかという点では、立ち止まってしまうことがあります。日々の断片的なメモと、一本の筋が通った原稿との間には、大きな隔たりがあるように見えるからです。
断片を集め、後から使える記録にする
2021年のObsidianでは、日付付きのデイリーノートを主軸にしていました。思いついたこと、読んだ記事や本、買ったものを、とりあえずその日のページへ書き込みます。そして前日のノートを振り返って整理していました。毎日欠かさず使うものの、感覚としては毎日ほぼ使い捨てにするような使い方でした。細かく仕分けるより先に、まずは日付のページへ残して回していく。これは、2015年に日付別ログという雑な整理で回すようになってから続いていたやり方でした。
ただ、日付のページに残す記録の書き方によって、後からの使い勝手は大きく変わります。たとえば「トースト」「7時起床」のように、単語や数値だけで残す生活ログがあります。これは事実だけを素早く残すには便利ですが、その行動に至った背景を落としてしまいがちです。
一方で、「朝寝坊して急いでトーストだけ食べた」というように文章の形で書けばどうでしょうか。そこには、単にトーストを食べたという事実だけでなく、行動の背景と感情も一緒に保存できます。文章化しておくと、後で読み返したときに当時の状況を思い出す手がかりが増えます。
睡眠や食事を記録していれば、自分の生活リズムが定点で見えてきます。その事実の記録に対して、文章による感情の記録を重ねることで、生活の変化を立体的に振り返ることができます。体験を文章化してみると、そこに自分の思考が介在して新しい気づきが出ます。書く手間を少しだけかけることが、将来の再利用価値を生むことにつながります。
素材から使う話題を選ぶ
日々の記録や気づきが溜まってきたら、それを執筆の材料として選び取っていく段階に入ります。ここで重要になるのが、素材と原稿を別の場所に置くことです。
メモが増えてくると、どの断片をすでに原稿として使い、どの断片がまだ未使用なのかが分からなくなりがちです。素材と原稿を別の場所に置くと、未使用の材料と書き進めた文章の境目が見え、次に使う材料を選びやすくなります。最初から厳密に分ける必要はありません。原稿が増えた時点で分離すれば、整理の負担を増やさずに執筆を続けられます。
最初から完璧に整った素材である必要はありません。不完全な素材の蓄積であっても、それが執筆の質を向上させます。そして、日付順に並んでいた記録をテーマごとに並べ替えてみると、元の記録にはない新しい意味を作ることができます。
この並べ替えと構成の組み立てを進める手段が、テーゼ型MOCの作成です。テーゼ型MOCでは、主張を見出しに立てて、その下に論拠を並べていきます。主張を見出しに立てて論拠を並べた時点で、文章の構成はもう組み上がっています。
MOCを作ってから改めて記事を書き起こす必要はありません。MOC作りの中で、すでに記事の組み立てが進んでいます。テーゼ型MOCはそのまま記事の構成に使えるため、残るのは構成に文をつけていく作業だけになります。整理と執筆を別の作業に分ける構えをやめると、アトミックノートの蓄積が執筆を組み立て作業に変えていく感覚が一段先へ進みます。
書ける話題から下書きを進める
全体の構成がMOCで見えてきたとしても、文章を全体の冒頭から順番に書こうとすると、最初の一文が決まらないだけで手が止まってしまうことがあります。
そうした停止を避けるためには、文章を小さなノートに分けておくことが有効です。小さなノートに分けた文章は、全体の冒頭を待たずに今書ける話題から始められます。全体の順番は後から整えればよいと考えれば、書きたい箇所が見つかったときに手を動かせるため、完成を待つことによる停止を避けられます。
アトミックノートの蓄積は、執筆をゼロからの苦作ではなく、部品の組み立て作業に変えてくれます。上から書けるところから書き進めていくことで、執筆の停止を防ぎ、下書きを着実に前へ進めやすくなります。
初稿は言い回しより全体の流れを作る
下書きを進めて初稿を作る段階において、意識すべきなのは言い回しの美しさにこだわらないことです。最初の執筆は文章を美しく仕上げる段階ではなく、全体の構造を固める段階として扱うべきです。
初稿で言い回しまで整えようとすると、細部に気を取られて手が止まりやすくなります。それだけでなく、特定の表現に縛られてしまい、後から構成を動かす自由も失われてしまいます。
上から書けるところから書き進めていくことが執筆停止を防ぐのは、まず全体の流れを作ることを優先するからです。また、「書くことは自分が何をわかっていないかを発見する行為である」という効用も、初稿でこそ強く働きます。頭の中だけで理解した気になっていた論理の抜けや説明の不足が、実際に文として書き出すことで初めて見つかるのです。
初稿の役割を構造決定に限定することが、結果として後段の推敲効率を上げることにつながります。